・・・あの透きとおるような海の藍色と、白い帆前船などの水際近くに塗ってある洋紅色とは、僕の持っている絵具ではどうしてもうまく出せませんでした。いくら描いても描いても本当の景色で見るような色には描けませんでした。ふと僕は学校の友達の持っている西洋絵具を思い出しました。
その友達はやはり西洋人で、しかも僕より二つ位、齢が上でしたから、身長は見上げるように大きい子でした。ジムというその子の持っている絵具は舶来の上等のもので、軽い木の箱の中に、十二種の絵具が小さな墨のように四角な形にかためられて、二列にならんでいました。どの色も美しかったが、とりわけて藍と洋紅とは喫驚(びっくり)するほど美しいものでした。
ジムは僕より身長が高いくせに、絵はずっと下手でした。それでもその絵具をぬると、下手な絵さえがなんだか見ちがえるように美しく見えるのです。僕はいつでもそれを羨しいと思っていました。あんな絵具さえあれば僕だって海の景色を本当に海に見えるように描いて見せるのになあと、自分の悪い絵具を恨みながら考えました。
そうしたら、その日からジムの絵具がほしくってほしくってたまらなくなりました。
・・・さて、お話はこの後どうなるのでしょう?
今回のMackeyのこだわりは「色」です。作品の中で「僕」が盗んだ藍色と洋紅色の二色を混ぜると、なんと葡萄色になります。有島武郎は、そこまで計算してこの話を構成していたのでしょうか。大きな謎ですが、これはデザイナーMackeyのこだわりの大発見です。
語り:花本弘子 音楽&効果音:ひぐま イラスト:Mackey
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